記事BLOGOS編集部2015年04月22日 07:13


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BLOGOS編集部2015年04月22日 07:13
「お笑いの悪魔が一番忍び込めないのは平凡な社会なんじゃねえかな」北野武監督インタビュー 1/2




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北野武監督の最新作『龍三と七人の子分たち』が4月25日に公開される。主演の藤竜也さんをはじめ、近藤正臣さん、中尾彬さん、品川徹さんら、元ヤクザの主人公「龍三」と「七人の子分たち」を演じる俳優の平均年齢は72.6歳。また、近年の北野武監督作品とは打って変わって、「ジジイが最高!」をキャッチフレーズに、コメディに振り切った作品となった。公開を前に、北野監督に話を聞いた。【大谷広太(編集部)、撮影:野原誠治】

ー北野作品と言えば、直近の二作(『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』)も含め、登場人物にアウトローが多いというのが特徴だと思います。今回もコメディー・タッチ作品でありながらも、アウトローな老人が主人公ですが、これには何か理由があるのでしょうか。

ごく普通のものも撮ってみたいとは思うんだけど、今の映画産業の構造自体、ある程度回収の見込みがつかないと撮れないんで。 そうすると『アウトレイジ』なんかは当たったんで、次も暴力映画っていうことになるんだけど、あんまり連作にしちゃうと『仁義なき戦い』みたいに、役者さんをまた生かして、「あれ、あの人死んでなかったか?」ってなっちゃう(笑)。

お笑いって、平凡なところにはあんまり無くってね。悪魔みたいなもんだから、結婚式とか葬式とか、笑っちゃいけない緊張するところに忍び寄ってきて「可笑しいだろ」って。だから、お笑いの悪魔が一番忍び込めないのは平凡な社会なんじゃねえかなって思う。

そうすると、ジイさんの元ヤクザなんてのは、お笑いがいつでも忍び寄れるって言うか、ネタが豊富な感じがして、『アウトレイジ』の前からアイデアもあったの。それで、お笑いもそろそろやりたいって思って。

始まる前から言うのもあんまり良くないんだけど、『龍三と七人の子分たち』っていうタイトルも含めて、最初から「お笑いだよ」って言っちゃってる。でも、『アウトレイジ』のイメージがあるし、藤竜也さんが出てるから、完全なヤクザ映画だと思ってた人もいるみたいだから(笑)。

ーまさにその『仁義なき戦い』の時代に若い頃を過ごしたんだろうな、というアウトローの老人たちが、今の社会で寂しい状態になって…という舞台設定ですが、高齢化社会とか、社会問題を意識して作ったというわけではないんですね。

うん、全然。オレオレ詐欺とか高齢化社会とか、ただ設定を借りちゃっただけで。
爺さんと若い人の対立構造みたいなことになってるんだけど、実は爺さんって、年取れば取るほどガキになるっていうか、考えることとやることは完全な子どもなんで、悪ガキと若い奴が喧嘩してる感じが面白いっていうか。

ーお年寄りというのは弱くて、若い方が守らなければいけないというだけの存在ではないと?

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うん。自分が行ってるサウナはジジイばっかりなんだけど、みんなリタイアして、金持ちで、女の話ばっかりしてて。「金持ってて、圧倒的な優しさがあれば、どんな女もヤらせないわけがない」って言って、前立腺の薬とバイアグラ飲んで遊んでて、「いいなこのジジイは」って思うけど(笑)。「お前らなんか来るところじゃねえ、向こう行け、少しは金稼げ」とか言って、若い人に絶対媚びない。

今、世の中が介護だとか、「老人には優しく」とかそんなんばっかりで、ジジイにとっては面白くない。「ほっといてくれよ」、ってのもあると思う。若い人も若い人で、「ああいうジジイは死なねえかな」って言ってくれる方が有り難いと思うし、喧嘩してるくらいが面白いよね。

ジジイが山手線に乗ってたら、席に座ってた若い奴が立ち上がって「どうぞ」って言った瞬間に、「オレはジジイじゃねえ馬鹿野郎。席譲るんじゃねえよこの野郎」って言ったって話に大笑いしちゃった(笑)。 そういうジジイが多い方が世の中面白いよ。

漫談のライブでよくやってた放送禁止のネタを入れちゃった
ーやはり俳優の方々の力もあるんでしょうか、作品を観ていますと、面白くて滑稽なんだけれど、一周回って、このジジイたちカッコイイんじゃないか、"粋"だな、と思わせられました。

やっぱりテレビだと、こういうキャスティングはしないと思うんだよね。コメディアンを使っちゃうんだ。でもコメディアンってのは、自分に近い者から笑わせにかかるんで、撮影現場がお笑いだらけになっちゃう可能性があって。いざ客前に出るとスカスカになってることがあるから、ちゃんと芝居をやれる人を探して、根底には悲しい話があるんだけど、台本自体は笑う方向に向かってるから、結局笑わざるを得ないという。

ー今回は、これまでの北野作品に登場したことがない方もキャスティングされていますね。

まず、キーになる藤さんが決まって、近藤正臣さんが決まって。

ー監督の作品の特徴として、説明的な演出があまりないと言いますか、台詞も極力そぎ落としていくというイメージがあるのですが、今回は何より台詞のボリュームが多いと思いました。藤竜也さん演じる龍三親子による、冒頭のスピード感のあるブラックユーモアの応酬にいきなり笑ってしまいました。今回はやはりこの"掛け合い"を全面に出そうと?

うん。刺青とか小指とか、昔、俺の漫談のライブでよくやってた放送禁止のネタなんだけど、映画だと平気でできるんで、そういうベタなネタを入れちゃおうっていうかね。

みんなベテランの役者さん達だから、芝居については問題ないんだけど、お笑いをやろうとされると困るから、「くれぐれもボケないでください、台詞をちゃんと言ってください」とお願いしたんだよ。

ーむしろ、面白いことをしようとしない方がいい、ということですか。

うん。やっぱりテレビでやってるお笑いでも、映画でやるとどんどんつまんなくなるし、役者さんはお笑いに関してはプロじゃないんで、撮り方や編集でお笑いに持っていっちゃう。みんな「役者さんのアドリブですか?」って聞くんだけど、全部台本そのまま。

「お控えなすって」から始まる、品川徹さんが口上を述べるシーンも、完璧に台本を作っておいた。品川さんは「相手の役者さんと1週間ぐらい特訓してきたんです」って言ったんだけど、1カメで連続することなく一言ずつカット割で撮っていったの。品川さんはびっくりしてたけどね(笑)。

ーあとは、監督の頭の中のイメージのように組み立てていくと。

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ここにこの人の台詞をこのサイズで入れれば、とかね。細かいんだけど、一つ一つ、聞いてる方と言ってる方をのりしろを付けて撮って、相手にすぐ反応するのか、間を置くのか、声をかぶせ気味にするのか、遮るようにするか、とか。この編集はやってて面白かったね。あ、完全に漫才になったなって。自分で編集してるのに、やっぱり何回見ても笑っちゃうシーンがあるから、これはいいやって。

ー一方で、監督の作品の場合、一発撮りのライブ感を大事にしている、というようなイメージも持っていました。

小さい声でトライしてもらって、すぐに本番行きましょうって。
リハーサルを4回も5回もやることがあるけど、我々は漫才やってたんで、同じネタを客前で2回できるわけねえだろっていうのがあるんで。自分の場合は演技もそうで、2回やったら2回目のほうが面白く無いはずなんだよね。刺身みたいなもんで、いじくっちゃうとどんどん鮮度が落ちるんで。

だからすごく早撮りで、最初はみんな戸惑っちゃった。でも、藤さんたちも、それをよくわかってくれて、「そのほうが鮮度が落ちなくてよかったですよ」って言ってくれた。

ー編集でかなり作りこんではあるけれど、映像からはライブ感のようなものも伝わってくるのは、そういうところにも理由あるんでしょうか。

そうだね。一番声も張ってるし、テンションが上がってるのは一発目の本番だから。
こっちも芝居を一回見ちゃうと、二回目はもっといいものを求めるんだけど、三、四回やると元の演技に戻ったりするからね、失敗しない限りワンテイク。

ーそれにしても、品川徹さんがああいう演技をされるというのが意外でした。真面目な役が多いイメージの俳優さんですから。

品川さんは「これでイメージチェンジができる」って、まだやろうとしてるのかって(笑)。面白かったな。
言いたいのはコレなんだけど、言っちゃいけないってのがある ?

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